水稲のカメムシ防除は、地域毎に用意されている防除暦に沿っておこなうことが基本です。とはいえ、防除暦を見ただけでは具体的な対策が想像しにくいこともありますので、本記事では斑点米の原因となるカメムシ類が米に与える被害と防除方法について説明します。
水稲でカメムシ被害となる害虫は「クモヘリカメムシ」「イネカメムシ」などの「斑点米カメムシ類」と呼ばれています。普段、畦畔や雑草地に生育しています。
近年の気候変動による気温の上昇がカメムシ大量発生の原因と考えられ、昨今のニュースとなっていますので耳にされている方もいらっしゃるかもしれません。稲が出穂するとカメムシは生息地から田んぼに移動し、稲の籾から養分を吸い取って黒く変色させてしまいます。
カメムシによる被害は大きくふたつの品質低下をまねき、結果的に減収の原因となります。
カメムシの登熟期の吸汁は充実不足につながり、殻ばかりで実のない籾(しいな)が多くなるため収穫量にも影響します。
カメムシにより加害された米は、「斑点米」(着色粒)となります。米の集荷時における農産物検査で格落ちとして判断されるのが着色粒です。農産物検査法上、着色粒の混在率は1等米の最高限度が0.1%と非常に厳しく、検査のなかで1000粒に2粒以上混入していると格落ち(=2等米)となるため作物としての価値が下がってしまいます。
夏場における水田周辺でのカメムシ類の行動は以下のとおりです。
斑点米カメムシ類の発生が多い場合は出穂期〜穂揃期と乳熟初期に防除を行い、発生が少ない場合は乳熟後期に薬剤散布を行いましょう。
有効な農薬としては、いもち病やカメムシ類と同時防除ができる「ビームエイトスタークルゾル」や、ウンカ類の幼虫に有効で天敵への影響が少ない「アプロード粉剤DL」などがあります。また、いもち病やウンカ類と同時防除でき、収穫30日前まで使える「フジワンラップ粒剤」や、出穂後も収穫の14日前まで使える「ラブサイドキラップフロアブル」などが有効です。
ただし、カメムシ類は防除したところですぐに周囲の雑草から新たに飛来してきます。農薬の適切な使用によって防除すると同時に周囲の雑草をこまめに除草し、繁殖の場所を作らないことも重要です。圃場周辺の畦畔や休耕田などの雑草地はカメムシの発生源になるため雑草防除は効果的ですが、出穂前後の草刈りはカメムシ類を圃場内に追い込むことになるので、出穂の2週間前までには圃場周辺の雑草を防除しましょう。
※地域で農薬使用に関するルールが設けられている場合があるので、地域の情報も必ず確認しましょう。農薬の登録は、「農薬登録情報提供システム」で検索できます。
農林水産省から病害虫の発生予察情報を提供しています。これらを参考にしながら地域における情報の詳細は、都道府県病害虫防除所のホームページなどを参照しましょう。
水稲栽培においてはさまざまな病虫害への対策が必要であり、産地毎に地域や主要品種に応じた栽培暦や防除暦を作成している場合があります。注意すべき病害虫は地域や品種だけでなく年によっても変わるので、地域の最新情報を毎年チェックすることが大切です。
参考:農林水産省
病害虫発生予察情報
https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/yosatu/index.html
都道府県病害虫防除所
https://www.maff.go.jp/j/syouan/syokubo/gaicyu/yosatu/boujosho.html
カメムシ防除の際、省人化するためにドローンの活用がおすすめです。ドローンでカメムシの防除をするメリットは以下のとおりです。
①安全性が高いこと
②化学農薬・化学肥料の使用量低減により、資材コストが抑えられること
③作業時間の削減
④プロも新人も、同じクオリティで散布できる
農業用ドローンは小回りが利くので、田んぼに木や電柱などの障害物がある場合でも障害物を回避する飛行ルートの作成が可能です。そのうえ、狭い田んぼや形状が複雑な場合でも効率的にかつ安全に農薬を散布できます。
また、農業用ドローンの場合には作物の近くで散布可能なので、ヘリコプターやブームスプレイヤーと比較すると周辺への農薬飛散量が少なくなり周辺圃場への影響はもちろんのこと周辺住民や農業用ドローンを操作する生産者自身が農薬を浴びることによる健康リスクへの配慮にもつながり、安全性が高いといえます。
農業用ドローン散布は最適量を必要としている箇所に正確に散布するので、環境にやさしい農業といえます。
通常の動噴散布では人が手動散布すると散布ムラが発生しやすいため、撒きのこしがないように田んぼに対して大量に撒いてしまいがちです。農作物に吸収されない化学肥料は温暖化ガス(亜酸化窒素)になります。特に窒素の地球上の循環ではすでに地球の限界を超えているため、世界中で水資源に悪影響を及ぼしていることがわかっています。
必要としているタイミングで必要としている量を必要な箇所のみ散布できる可変散布ができる農業用ドローンであれば、化学農薬・化学肥料の使用量を低減できます。資材コストを下げながら持続可能な農業に移行できるため、未来のためにも生産者にも地球にもやさしい手段といえるでしょう。
出典:農林水産省 みどりの食料システム戦略について
(P7 プラネタリー・バウンダリー)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/honbu-4.pdf
農業用ドローンで農薬散布すると平均で61%、最大で89%作業時間が短縮されることが農研機構によるスマート農業実証プロジェクトから確認されました。
特に組作業人数の多いセット動噴と比べると省力効果が大きく、ブームスプレイヤーと比べると給水時間が短縮されることによって疲労度が減ったことも報告されています。
ドローンを導入することで確実に労力の軽減や効率化につながり、空いた時間を利用して別の作業へ注力できるので結果的に収益を向上にもつながります。
出典:農林水産省 スマート農業をめぐる情勢(R6.9月版)
(P35 スマート農業実証プロジェクト スマート農業技術の効果)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-198.pdf
農業用ドローンでは自動散布できるモデルが登場しており、圃場に対して散布の方法をこと細かに設定可能です。
そのため個々人の散布技術や知見に左右されることなく、農作業熟練者から新規農業参入者や新人まで同じ品質で散布でき作業に対するハードルが下がるとともに、心理的負担も払拭できます。
水稲で対策すべき病害虫のなかで、カメムシ防除について説明しました。カメムシ類は多くの作物にとって主要な害虫とされていますが、気候や品種によって異なるので必ず圃場のある地域で作成されている防除暦を参考にしましょう。
同じ地域であっても圃場の環境はそれぞれ異なるため、地域の防除暦をもとに自身の圃場専用の防除計画を立てることが重要です。防除することで品質や収量低下を防ぐことができるのでこまめに圃場をチェックし、臨機応変に対応していきましょう。