スマート農業のひとつとして農業用ドローンを活用した水稲栽培が改めて注目されています。農作業の担い手不足や高齢化が進んでいる農業業界では、農薬散布作業にお悩みの方も多いのではないでしょうか。ここでは、作業負荷を軽減しながら作業効率を高める農業用ドローンのメリットと、農薬散布以外の活用方法を解説します。
農業用ドローンの導入検討段階にやるべきリストを紹介するので、ぜひ最後まで御覧ください。
種籾から収穫まで1年がかりとなる米作りに欠かせない農薬散布にドローンを活用するメリットは以下の4つです。
①安全性が向上する
②化学農薬・化学肥料の使用量低減により、資材コストが抑えられる
③作業時間を削減できる
④プロも新人も、同じクオリティで散布できる
ここではこれらのメリットを解説していきます。
農業用ドローンは安定した低空飛行散布が可能なので周囲へのドリフトを抑え、ヘリコプターやブームスプレイヤーと比較すると周辺への農薬飛散量が少なくなります。そのため周辺圃場への影響はもちろんのこと、周辺住民や農業用ドローンを操作する生産者自身が農薬を浴びることによる健康リスクへの配慮にもつながり、安全性が高いといえます。
農業用ドローン散布は、最適量を必要としている箇所に正確に散布するので、環境にやさしい農業といえます。通常の動噴散布では、人が手動で散布するので散布ムラが発生しやすいため、撒きのこしがないように田んぼに対して大量に撒いてしまいがちです。大量に散布されて結果的に農作物に吸収されなかった化学肥料は温暖化ガス(亜酸化窒素)になってしまいます。
特に、窒素の地球上の循環ではすでに地球の限界を超えているため、世界中で水資源に悪影響を及ぼしていることがわかっています。必要としているタイミングで必要としている量を、必要な箇所のみ散布できる可変散布ができる農業用ドローンであれば、化学農薬・化学肥料の使用量の低減が可能です。資材コストを下げながら、持続可能な農業に移行できるため、未来のためにも生産者にも地球にもやさしい手段を考慮しましょう。
出典:農林水産省 みどりの食料システム戦略について
(P7 プラネタリー・バウンダリー)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/honbu-4.pdf
農業用ドローンで農薬散布すると、平均で61%、最大で89%作業時間が短縮されることが農研機構によるスマート農業実証プロジェクトから確認されました。特に組作業人数の多いセット動噴と比べると省力効果が大きく、ブームスプレイヤーと比べると給水時間が短縮されることによって疲労度が減ったことも報告されています。
また農業用ドローンは小回りが利く特徴があります。そのため田んぼに木や電柱などの障害物がある場合や狭い田んぼや形状が複雑な場合でも、効率的にかつ安全に農薬散布が可能です。
このようにドローンを導入すれば、確実に労力の軽減や効率化につながり、空いた時間を利用して別の作業へ注力できるので、結果的に収益を向上にもつながります。
出典:農林水産省 スマート農業をめぐる情勢(R6.9月版)
(P35 スマート農業実証プロジェクト スマート農業技術の効果)
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/index-198.pdf
農業用ドローンでは、自動散布できるモデルが登場しており、それらを使用すれば、圃場面積に対してどのように散布するか、事細かに設定できます。
個々人の散布技術や知見に左右されることなく、農作業熟練者から新規農業参入者や新人まで同じ品質で散布できるので、作業に対するハードルが下がるとともに、心理的負担も払拭できます。
田んぼへの農業用ドローンといえば農薬散布が真っ先に思いつきますが、農薬散布以外にも活用できるのでひとつひとつ解説します。
①肥料散布
②直播
③露払い
作物の育成で必要な栄養となる肥料も、液剤、粒剤問わず農業用ドローンで散布ができます。
田んぼ全体に均一に肥料を散布する方法や、可変散布に対応したドローンであれば必要な部分だけに効率的に施肥も可能です。例えば、育成具合に差が出ている場合、成長を促すために局所的に施肥できるので全体の育成具合を合わせていくことができます。
ドローンによる水稲直播栽培は、米づくりの省力化として注目を集めています。
通常、水稲ではハウス栽培などで田植え用の苗を作り、苗を数株毎に移植する田植え作業を終えるには時間も人手もかかります。一方、ドローンによる水稲直播栽培は0.1haあたり約3分程度で種を散布できるので時短になることに加え、適切な範囲に最適な量を均一に散布するので省力化と効率化を実現します。
航空法で飛行が制限されている地域を除き、すべての水田でドローンによる水稲直播が実施可能です。
ドローンのダウンウォッシュ(下方向の風)を活用して稲の露払いにも活用できます。
秋の稲刈り時の稲の葉には朝方に露が付いていることがあり、稲に水分がある状態で稲刈りをするとコンバインが詰まる原因になったり、籾の乾燥時に余計に乾燥時間がかかることにもなるため、露を人工的に露払いして乾かしていきます。ちょっとした生育時の知恵ですが、散布だけがドローンの活用方法ではないため、より効果的に活用していきましょう。
農業用ドローンの導入には、メリットばかりではなく、デメリットな側面もあります。農業用ドローンを導入するデメリットは以下の3点です。具体的に見ていきましょう。
①初期投資コストがかかる
②ライセンス・スキルが必要
③手動・半自動飛行の場合、飛行時に複数人の作業者が必要になる
農業用ドローンは購入時にコストがかかります。目安となる初期費用は80〜300万と言われており機能やタンクサイズなど多種多様な組み合わせがあります。また消耗品となるバッテリーやタンクなど、オプション品の選択によっても価格が変動するものの、導入にあたり、ある程度の費用がかかってきます。
とはいえ、国が2024年10月から施行するスマート農業技術活用促進法もあり、農家の方への融資や税制優遇、自治体の補助金精度が活用できる場合もあります。また、近隣の農家と共同購入し負担を減らしている事例や、ドローンを自分の圃場で使用するだけではなく、近くの農家からの散布委託を受けることで副収入を増やすことに成功している方もいます。
出典:農林水産省 農業用ドローン https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/forum/R2smaforum/mattingu/drone.html
農業用ドローンを圃場で利用する際には、それぞれのメーカーが実施する講習会を履修し、修了し、国土交通大臣の飛行許可承認の手続きが必要です。農業用ドローンを操縦する際には、国家資格は必要ではありません。
また、ある程度飛行時間を重ねることで操縦スキルを研鑽していく必要もあります。操縦スキルに不安な方は、自動飛行機能が搭載されている農業用ドローンを選ぶとよいでしょう。
操縦スキルや飛行経験値に関係なく、誰でも均一な飛行ができるとともに、同じ品質での散布が可能になります。講習会を経てライセンスを取得する必要はありますが、飛行テクニックのスキルや経験値は、農業用ドローン機材選びの段階で、自動飛行する農業用ドローンを選択すればカバーできます。
一般的な農業用ドローンの場合、飛行するためには操縦者と補助者(ナビゲーター)が必要となっており、散布作業自体の労力は減り効率化できるものの、人的拘束は避けられません。手動あるいは半自動で飛行するドローンは、操縦や散布を手元のコントローラーで管理する必要があるため、二人一組で飛行中の安全を守る必要があります。最近では、ひとりで飛行・散布作業できる全自動飛行散布の農業用ドローンも選べるようになり、国交省が公開している「航空局標準マニュアル(空中散布)」どおりに飛行すれば補助者なし、つまり、ワンオペでの操縦が可能になり、より効率化が進んできています。
参考:航空局標準マニュアル(空中散布)
https://www.mlit.go.jp/common/001521379.pdf
ここまでで、農業用ドローンのメリット、デメリットと効果的な活用方法を説明しました。ここからは自分にピッタリな農業用ドローンを選び、後悔しないためにも重要なポイントをお伝えします。ポイントは次の5つです。
①圃場の広さや使用する回数に合わせたタンクサイズ選び
②オペレーションする人数も考慮する飛行スタイル
③国産メーカー、海外メーカー
④サポート体制
⑤税制優遇される農業用ドローンも
農業用ドローンを検討する際には、自身の圃場の広さと使用する回数を整理しましょう。
農業用ドローンは小回りが利いて、農作業と農作業の間のスキマ時間にすぐに活用できるお手軽さが特徴です。そのため大は小を兼ねる、と考えて大型の農業用ドローンを購入すると、手軽さが損なわれてしまいます。実際大型のドローンを購入し、使わなくなってしまった事例はよく耳にします。
農業用ドローンはおおまかに10リットル、20リットル、30リットル以上のタンクサイズがあります。タンクサイズが大きくなれば1回の作業で散布できる面積も広くなりますが、その分大きくて重いバッテリーを搭載する必要があり、機体総重量が重くなります。圃場の広さとタンクサイズや重量が合わないと、かえってオペレーションが煩雑になるため、十分考慮する必要があります。1日あたりの散布想定圃場枚数と広さと回数を考慮し検討するようにしましょう。
【田んぼ作業面積に対する推奨農業用ドローンタンクサイズ】 | ||
作業面積 | タンクサイズ | 運用人数 |
〜30ha | 10リットル | 1〜2人 ※1人出の運用は自動飛行、かつ飛行条件を満たしている場合 |
30ha以上 | 20リットル | 2〜3人 |
50ha以上 | 30リットル 以上 | 2〜3人 |
農業用ドローンの操作方法が大きく2つあり、自身で飛行・散布するA:手動飛行(半自動飛行)と、散布流量を設定し飛行・飛行経路は自動生成され飛行するB:自動飛行があります。
Aのほうが操作性に自由度がありドローンを自在に動かしている感覚もあるため導入しやすそうに見えますが、操縦スキルが必要になるため、ドローン初心者や農業用ドローンに作業をお任せしたい方はまずBを選ぶと気軽に導入できます。
空中散布するにはドローンを飛ばしながら、農薬散布や肥料散布を同時におこなう必要がありますが、安心して任せられる飛行技術がともなうようになるには時間がかかるためです。
またAで飛行するためには操縦者と補助者(ナビゲーター)が必要となるため、常に2人体制での作業となり、手が空いたときに散布するには、お互いのスケジュール調整など煩雑さが発生してしまいます。
一方Bは一定条件下であればひとりで操作できる農業用ドローンもでてきているので、そういった煩雑さからも開放されます。
農業用ドローンの導入を検討されている方は、作業の効率化をお考えだと思うので、ひとりで操作可能なBの自動飛行ドローンで、飛行と散布をドローンにお任せし、気軽に作業できる環境をおすすめします。
農業用ドローンは、さまざまな国のメーカーから発売されています。国産メーカーは海外メーカーと比べて価格がやや高い傾向がありますが、日本の農業の現場を見てきたからこそ反映させることができる機能を搭載していることが強みですし、モデルチェンジサイクルも長めになります。
一方、海外メーカーは資材調達力も高く、自社開発スピードも早いため手の届きやすい価格帯で入手できますし、速いスピードでモデルチェンジもおこなわれます。
国内・国外それぞれの一長一短をよく理解したうえで選ぶとよいでしょう。
農業用ドローンは飛行する農作業機です。散布タイミングは農作物の育成状況で決まったタイミングでの散布がより効果的になるため、必要なタイミングで何らかの故障が発生してしまうと、とても困ることになります。
また、あってはならないことですが、操縦者のミスでドローンを障害物にぶつけてしまう、墜落させてしまうなどのリスクもありえます。そのようなときの対応体制をチェックするようにしましょう。
サポート事業所が近くにあることが重要なのではなく、修理依頼した際に、どれくらいのスピードで解決してくれるかを具体的に確認しましょう。事業所が近くにあったからといって、修理依頼したところ1週間かかった事例もよく聞く話ですし、万が一のときの代替機準備があるかどうかも確認するとよいでしょう。
効率化のために農業用ドローンを導入するのです。機体に何らかの故障が出た際のカスタマーサポート窓口体制をしっかり確認し、農作業の効率化をメーカーと二人三脚で達成できるかどうかも見極めポイントです。
安い買い物ではない農業用ドローンですので、少しでもお財布に優しく導入できる方法を紹介します。
農林水産省が制定している化学肥料・農薬の使用低減などに取り組む、環境にやさしい「みどり投資促進税制」の対象農業用ドローンを導入すれば、設備投資の際の税制優遇が受けることができます。特別償却が可能になるため、導入当初の税負担を軽減できます。
参考:農林水産省
みどりの食料システム法
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/houritsu.html
基盤確立事業実施計画の認定状況及びみどり投資促進税制の対象機械https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/midorihou_kibann.html
農業用ドローンが注目された直近の出来事として、「スマート農業技術活⽤促進法」が2024年10月1日から施行されることも背景にあります。
「スマート農業技術活⽤促進法」とは将来の農業生産の目指す方向性として、生産性向上、環境負荷低減が農業の持続的な発展を維持するための基本理念として掲げられました。ここでは少し深堀りしてお伝えします。
農業従事者は年々減少しており、高齢化と担い手不足が大きな課題となっており、このままだと20年後には1/5までに減少すると言われています。従来の農業生産方式では食料の安定供給が危ぶまれています。国が掲げる、みどりの食料システム戦略での農業生産に関わる主な2050年目標は下記が掲げられています。
農業生産の場面だけではなく、食品ロスの削減や食品製造業の生産性向上などを含め、食料システム全体にわたり、2050年を目標年次とした目指す姿とKPI(重要業績評価指標)が設定されています。
出典:農林水産省 みどりの食料システム戦略https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/honbu-60.pdf
2024年10月から施行される「スマート農業技術活⽤促進法」では、おおきく、スマート農業を取り入れる農業生産者、とスマート農業を推進する会社が農林水産省から認定を受けることでさまざまな税制や長期貸付金の優遇支援を受けることができるようになります。
今後20年間で、基幹的農業従事者は現在の約1/4(116 万人→30万人)にまで減少が見込まれます。従来の生産方式を前提とした農業生産では、農業の持続的な発展や食料の安定供給を確保できなくなるため、国をあげてスマート農業技術の活用と併せて生産方式の転換を進めることになり、農業用ドローンに脚光が集まっています。
農業にドローンを導入するかどうか、長い間迷われている方もいらっしゃる方のために、検討中だからこそやっておいたほうがよいことを紹介します。
百聞は一見にしかず。自分にあった機体選びが重要な農業用ドローンは、実際に農薬散布などのデモンストレーションを自分の目で見てから決めましょう。
農業用ドローンはメーカーが直接販売していないこともあるので、購入する際には販売代理店や、農機販売店、JAなどを経由した購入がほとんどです。気になる機体があれば、メーカーや代理店などにデモフライトや説明会開催があるかどうかを問い合わせてみましょう。
また、このような機会を活用すれば、ドローンの性能や操作性などを実際に見極めることもできますし、運用にあたってのカスタマーサポート体制や、よくある機体トラブルなども直接担当者に確認できます。積極的に活用しながら疑問点を解消していきましょう。
農業用ドローンを購入する前でも、メーカー/代理店のライセンス講習に参加し、実際の農業用ドローンの座学を本格的に学び、飛行訓練を受けることが可能です。
機体の購入を決めてからライセンスを取りに行く方もいますが、以下の2点から購入前の講習会参加はメリットがあります。
まず、事前に自分自身で操作性を確認できることです。購入後の後悔を避けるためにも自分でドローン飛行ができる講習会は意味があります。
また購入前にライセンスを取得しておくと、購入機体が到着し飛行許可申請後、散布飛行が可能になります。予定していた農作業に取りかかれるのでスケジュールがたてやすくなります。
農業用ドローンは田んぼでの農薬散布だけでなく、肥料散布や直播、露払いまで活用ができます。そのため導入すれば人手不足を解決しながら、効率的な作業ができる点が魅力です。農業用ドローンを選ぶ際には、安さだけではなく自身の圃場サイズや作業性、そして必要に応じたサポート体制もしっかりと見極めて選ぶとよいでしょう。
本記事で得られた知識をもとに自分にぴったりな農業用ドローンを選んで、スマート農業を始めてみましょう!